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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)833号 判決 1975年3月27日

控訴人(附帯被控訴人) 仁平誠

補助参加人 株式会社関東銀行

右両名訴訟代理人弁護士 糸賀悌治

被控訴人(附帯控訴人) 株式会社堀田商店

右訴訟代理人弁護士 浜田正義

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

被控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用及び参加費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)代理人は控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人に対し金五〇万円およびこれに対する昭和三四年四月一日から支払いずみまで日歩五銭の金員を支払うべし。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、被控訴会社の茨城県下における肉豚等の買付の業務は同会社の茨城支店長塚本源助が行なっており、昭和三五年五月被控訴会社が倒産した際塚本が被控訴会社の命を受け、支店関係の県下の債権債務の整理に当った。同年六月一〇日頃被控訴会社の補助参加人株式会社関東銀行(以下参加銀行という)に対する約金三、〇〇〇万円の負債について、塚本が参加銀行本店営業部長本橋浦之助、同貸付課長平井貞男と協議の結果、被控訴会社茨城支店関係の貸付金および売掛金債権を一切参加銀行に譲渡し、参加銀行がその取立をして、被控訴会社の参加銀行に対する弁済に充当するという協定が成立し、右三名が売掛先や、貸付先をまわり、その旨を各債務者に告げ、各債務者の承諾を得た。

二、控訴人は昭和三四年二月二八日被控訴会社に対し、控訴人所有の土地建物に債権額五〇万円の抵当権を設定したが実際に被控訴会社より借受けたのは昭和三五年五月に被控訴会社が倒産するまでの間に金四三万円であった。右貸付金も右譲渡の対象であり、これについても同年六月一〇日頃、前記三名が控訴人方に来たさい控訴人もこれを承諾して右金額を参加銀行に支払うべき旨を了承した。控訴人は参加銀行の請求に対し支払の延期を求めていたが、昭和四四年五月二〇日元金四三万円を支払い、損害金の免除を受けた。よって、控訴人の被控訴会社に対する支払義務はない。

三、(被控訴人の主張に対し)(一)右一掲記のとおり、塚本は当時被控訴会社茨城支店長であり、同支店関係の営業の一切について代理権があり、本件債権譲渡は、塚本の代理権に基づく行為であって有効である。

(二)右債権譲渡行為の時点においては、塚本も参加銀行も本件会社更生申立に基づく保全命令の存在を知らなかった。その後右更生申立が却下され保全命令も効力を失ったのであるから、本件債権譲渡は有効である。

(三)参加銀行が被控訴会社に対して有した債権が全部消滅したとの被控訴会社の主張は否認する。仮に参加銀行が被控訴会社より債権の取立を行い、右債権が消滅し、あるいはそれが超過払になっているとしても右は参加銀行と被控訴会社間の問題であって、それによって本件債権譲渡が効力を失うことはない。

(被控訴人の主張)

一、仮りに被控訴会社の控訴人に対する本件債権を参加銀行に譲渡する行為があったとしても、右債権譲渡は塚本の無権代理行為であるから無効である。

二、仮りに塚本に代理権があったとしても、右債権譲渡は被控訴会社の更生申立に基づく保全命令に違反してなされたものであるから無効である。もつともその後右会社更生手続の申立は却下された。

三、仮りに本件債権譲渡が有効であるとしても、本件債権は、参加銀行が被控訴会社に対し債権を有している間に限り、取立てうるものであって、同債権回収後は本件債権は被控訴会社に返還(戻譲渡)されるべきものである。昭和三五年五月一日現在の被控訴会社の参加銀行に対する債務総額は金一、一八〇万一、四〇〇円であるのに対し、塚本は昭和三六年三月に金二、二一八万二〇円を支払ったのをはじめ、総計金三、三三〇万九五四六円を参加銀行に支払っており、右は超過支払いであるから、参加銀行は本件債権を取立てる権限も利息免除の権限もない。

(証拠関係)<省略>。

理由

被控訴人が控訴人に対し昭和三四年二月二八日金四三万円を控訴人において同年三月から毎月末日かぎり金二万円ずつ分割して弁済すべく、右弁済を一回でも怠ったときは期限の利益を失うとの約旨で貸与したこと、控訴人が右割賦金の支払をせず、同年三月末日期限の利益を失ったことは当事者間に争いなく、成立に争いない甲第一号証の記載と当審における被控訴会社代表者尋問の結果をあわせれば、遅延損害金は日歩五銭の約であったことを認めることができる。被控訴人は右貸金額は金五〇万円であると主張し、右代表者尋問の結果中にはその旨の供述があるが、右部分は成立に争いない甲第四号証の記載、当審における証人塚本源助の証言及び弁論の全趣旨に徴し直ちに採用しがたく、その他にこれを認めるべき的確な証拠はない(かえって右挙示の証拠をあわせれば当時被控訴人は後記のとおり控訴人にその仕入資金を金五〇万円を限度として貸出すことにし、控訴人の不動産に抵当権(実質は根抵当権)を設定したが、貸出、返済をくりかえし、当時残存債権としては金四二万余円であったものと推認される)。

控訴人は、被控訴会社茨城支店の支店長塚本源助は昭和三五年六月一〇日頃その権限に基づき、被控訴人の控訴人に対する右債権を参加銀行に譲渡し、控訴人はこれを承諾し、昭和四四年五月二〇日参加銀行に対し右元金四三万円を弁済し、損害金の免除を受けたと主張するので判断する。

<証拠>によれば、次の事実が認められる。すなわち、被控訴会社と参加銀行とは、昭和三三年一〇月頃から取引を始めたが、被控訴会社茨城支店設立当時被控訴会社本店の金融事情が悪かったため、現地で融資を受けることとなり、その具体的な方法としては、訴外塚本源助の所有財産を担保として、塚本名義の手形を参加銀行で割引き、被控訴会社茨城支店の口座に振り込むという形式をとっており、被控訴会社と参加銀行との間には、債務者を当時の被控訴会社茨城支店長岩本武、保証人を堀田与三松塚本および宮本武とする継続的な金融貸借契約が成立していた。その後塚本は、昭和三四年一二月頃から被控訴会社茨城支店長に就任し、支店の営業を任せられていたが、当時家畜商で右茨城支店に生豚を集荷して納入していた控訴人から、被控訴会社に専属的に豚を納めたいので仕入資金として金五〇万円を限度として常時貸付けて欲しいと依頼され、塚本は右依頼について本店に禀議を提出したところ、本店としては、控訴人に金五〇万円を限度として貸付ける旨決定した。その後、昭和三五年五月一〇日頃被控訴会社が倒産し、その当時、参加銀行は被控訴会社に対し貸付金が約金三、九〇〇万円、手形割引金が、金三、五〇〇万円であり、これに対し被控訴会社の参加銀行に対する定期預金等は約金五、八〇〇万円であった。参加銀行は、右債権の取立を確保するため、昭和三五年五月一一日に被控訴会社茨城支店の諸帳簿を引上げ同支店会計課長八代三樹雄をして同銀行の一室で帳簿の整理に当らせ、参加銀行貸付課長平井貞男が被控訴会社の売掛金等の回収に当り、同銀行への入金に応じて被控訴会社の債務を減ずるという方法を講ずるについて塚本の同意を得て、訴外同銀行営業部長本橋浦之助と塚本および平井の三名が債務者等関係先について、売掛金の存否、残高を確認の上債務者の了解を得て、爾後被控訴会社に支払うべき債務を右銀行に支払うよう依頼すべく、控訴人方ほか二、三名のところを回り、控訴人はその旨承諾したが、被控訴会社からの更生申立に基づく保全命令が発せられたためその他の債務者には右の依頼をしなかった。その後控訴人は昭和四四年五月二〇日金四三万円を参加銀行に支払い、遅延損害金については免除を受けた。以上のとおり認められ、証人塚本源助の証言中右認定に反する部分はたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば本件貸金債権は被控訴人の参加銀行に対する債務の弁済を確保するため被控訴会社茨城支店塚本源助によって参加人に譲渡(譲渡担保)され、債務者たる控訴人においてこれを承諾したものと認めるのが相当である。

被控訴人は当時塚本には被控訴人のため債権譲渡をする権限がなかった旨主張するけれども、塚本が被控訴会社茨城支店の支店長であったことは右のとおりであるから、同人は支店の営業については支配人と同一の権限を有したものとみなされ、右支店関係の債権を支店関係の債務の担保のため譲渡することは支店の営業の範囲内に属するものというべきであるから、右塚本にその権限があったものというべきである。被控訴人の主張は支店長の代理権に制限があり、右行為はその限界を超えるというにあると解されるが、この点につき相手方たる参加銀行が悪意であったことはこれを認めるべき証拠はなく、右認定の経緯にかんがみむしろ善意であったものと推認されるから、右行為がその代理権の制限を超えることをもって争うのは失当である。

被控訴人は右債権譲渡は、当時被控訴会社につき会社更生申立がなされ、裁判所から財産保全命令が発せられていたのに反してなされたものであると主張し、右事実は当事者間に争いないが、右申立は却下されたことまた当事者間に争いなく、従って保全命令も失効したというべきであるから右債権譲渡はさかのぼって有効となったものと解するのが相当であり、この点の被控訴人の主張は失当である。

被控訴人は被控訴会社の参加銀行に対する債務は控訴人の弁済以前に消滅しているから参加銀行は本件債権を被控訴人に返還(戻譲渡)すべきであり、その弁済を受けることも、債務免除することもできないはずであると主張する。しかし被控訴人の右主張によっても参加銀行が本件債権を返還しない以上被控訴人は本件債権の債権者たる地位を回復するものでないことは明らかであるのみならず、その債権復帰の事実につき債務者たる控訴人に対する通知もしくは控訴人の承諾のあったことはその主張しないところである。しかのみならず被控訴会社の参加銀行に対して負担した債務が被控訴人主張のとおり決済されて消滅したことは被控訴人の全立証によってもその証明が十分でないからこれを認めることはできない。従ってこの点の被控訴人の主張も失当である。

しからば被控訴人はすでに本件債権を有しないことは明らかであるから、これを前提とする本訴請求は失当として棄却すべきである。

よってこれと異なる原判決を右の趣旨に変更すべく、被控訴人の附帯控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用及び参加費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九四条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 園部逸夫)

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